不満があって辞めたわけではない

最初に言っておきたいのは、公務員という仕事が嫌だったわけではない、ということです。福利厚生も収入も安定していて、地域に貢献できる仕事でもある。今でも良い仕事だと思っています(働いて感じた良かったこと・後悔は別記事に詳しく書きました)。

だからこそ、辞めるのは簡単ではありませんでした。「仕事が辛いから辞める」ではなく、「続けられるけれど、何かが足りない」。この感覚の正体を言葉にするのに、かなり時間がかかりました。

きっかけは、プログラミングとの出会い

価値観が変わる入口になったのは、プログラミングでした。趣味の延長で始めた学習で、「Hello World」が画面に出たときの小さな達成感が忘れられず、気づけばのめり込んでいました。仕事終わりの2〜3時間、休日の空き時間、生活の中心がプログラミングになっていきました。

このときの感覚は、公務員として9年働く中でほとんど味わったことのないものでした。「自分が作ったものが動く」実感と、「まだ先がある」という前向きな焦り。これが、「このまま続けていていいのか」という問いを生みました。

実は、その問いの芽は前からありました。3〜4年目、仕事に慣れた頃、「このまま定年まで働く自分を想像できるか」とふと思うようになっていた。毎年4月に「また同じ1年が始まる」と感じるたび、その違和感は少しずつ膨らんでいました。自分が本当に欲しかったのは「成長している実感」だったのだと、プログラミングと出会って気づいた気がします。

一番悩んだのは、家族のことだった

退職を具体的に考え始めて、真っ先に頭に浮かんだのは家族でした。子どもが2人います。

公務員を辞めるとは、毎月の安定した給料も、ボーナスも、退職金も——そのすべてを手放すということです。仕事がうまくいかなかったら。収入が減ったら。教育費はどうするのか。「自分一人なら踏み出せても、家族がいる中で失敗したら」という考えが、何度も決断を止めました。

だからこそ、勢いで辞めることだけは避けようと決めていました。感情で動かず、準備を整えてから判断する。そこだけは自分に課していました。

「正解だと言ってほしかった」自分

もう一つ、正直に書いておきたい悩みがあります。周りにどう思われるか、が怖かったことです。

「もったいない」「安定しているのに何で」——覚悟していた言葉は、想像どおり来ました。今振り返ると、周りの反応を気にしていた時点で、僕はまだ「安定が正解」という価値観から抜け出せていなかったのだと思います。

自分で選ぼうとしているのに、心のどこかで、誰かに「それは正解だよ」と言ってほしかった。でも、こういう決断は、誰かに正当化してもらえるものではない。それに気づいたのは、もう少し後のことでした。自分の選択を自分で引き受ける——その覚悟ができるまでが、一番長かったように思います。

最終的に、どう決めたか

決める前、何度も自分に同じ問いを投げました。

「10年後の自分は、どちらを後悔するだろう」。

公務員を続けて、挑戦しなかった10年後。公務員を辞めて、エンジニアとして生きようとした10年後。失敗するかもしれない。うまくいかないかもしれない。それでも「やらなかった後悔」と「やった後悔」を天秤にかけると、僕の場合は前者の方が怖かった。

「安定を選び続けて、定年まで働いて、最後に『あのとき挑戦していれば』と思う自分」。それが一番嫌だと、はっきり分かった。その答えが出たとき、決意が固まりました。

決めても、不安は消えなかった

決断したから不安が消えた、なんてことはありませんでした。退職日が近づくほど「本当にこれでいいのか」と思う日もありました。それでも、踏み出さなければ何も変わらない。不安を抱えたまま前に進むしかありませんでした。

「完璧な確信がなくても動ける」。この経験で、それを初めて知りました。

これから辞めるか迷っている人へ

「公務員は辞めた方がいい」と言いたいわけではまったくありません。合う働き方は人によって違うし、公務員として長く活躍するのが幸せな人もたくさんいます。

ただ、「挑戦したい」という気持ちがあるなら、それを無視し続けるのも違うと思います。焦る必要はありません。でも、その気持ちがあるなら、10年後の自分に問いかけてみてください。どちらを、より後悔しそうか。

なお、実際に辞めた後どうだったか——収入の不安、確定申告、失ったものと得たもの——は、別記事(公務員を辞めてフリーランスになって分かったこと)に正直に書いています。「辞める前」のこの記事と合わせて読むと、判断の材料になるはずです。

まとめ

公務員を辞める決断は、人生で最も大きな決断の一つでした。安定を手放す不安、家族への責任、周りの目——いろいろな感情がありました。最後に背中を押したのは、「挑戦しなかった後悔の方が大きい」という一点でした。

今でも公務員は素晴らしい仕事だと思っています。だからこそ、辞めるかどうかは、誰かの意見ではなく、自分の価値観で決めるしかない。そう感じています。